不適切なシミ抜き薬品による繊維溶解

婦人ジャケットを石油系ドライクリーニング後、袖口部分の風合いが変化したとのご連絡がクリーニング事業者からありました。
アセテート溶解1s しかし、これは風合い変化ではなく、不適切なシミ抜き薬品による繊維の損傷であるといえます
この製品は、身頃部分がレーヨン84%、ナイロン11%、ポリウレタン5%であり、袖部分は、トリアセテート63%、ポリエステル37%の混紡による異素材の組み合わせです。
アセテート溶解3s 指摘のあった袖部分の異常は、バックライトによる観察から、一部繊維の消失によるものであると見られます。
アセテート溶解5s

アセテート溶解4s さらに、実体顕微鏡で正常部と異常部を観察比較するとポリエステル繊維に損傷はなく、トリアセテート繊維だけが消失していることがわかります。
アセテート溶解7s

正常部分

アセテート溶解8s

アセテート繊維だけが消失している異常部分

構造に変化はなくトリアセテート繊維だけが消失していることから、何らかの薬品によって溶解除去されたものであると見られます。
家庭においてトリアセテートを溶解する薬品としては、除光液の主成分であるアセトン、シンナーがあり、マヨネーズや酢などでも劣化します。
シミ抜き剤として使用されているジメチルホルムアミド、氷酢酸、塩化メチレンなどによって溶解します。
異常箇所が、袖口だけではなく、袖全体にランダムに発生していることから、原因の推定が困難です。しかし、家庭や着用中に発生したものである場合、トリアセテート繊維は一旦溶解した後、溶剤が揮発するとトリアセテート樹脂が固着するはずですが、完全に除去されていることから、シミ抜き工程時にトリアセテートを溶解する薬剤が使用され、トリアセテート樹脂がバキュームで除去された可能性が高いと推測されます。