クリーニングと繊維製品の品質に 法制度上の関連性は無い!?

●家表法は消費者が購入する際を対象
メーカーあるいは海外ブランドなど販売業者とのクリーニングトラブルについて、クリーニング業者側が主張するに当たって品質を協議するための情報となるのは、メーカーあるいは販売者の家庭用品品質表示法による表示義務しかないと一般に考えられている。

確かに家庭用品品質表示法に基づく繊維製品品質表示規程で指定された35 品目の繊維製品については、製造者はもちろん海外輸入ブランド品であったとしても、個人輸入品であったとしても日本国内で販売されるものにはすべて、繊維の組成、はっ水性、家庭洗濯等の取扱い方法、表示者名及び住所又は電話番号を表示することが義務付けられている。

しかし、これらの表示は、あくまでも「一般消費者の利益を保護する」(家庭用品品質表示法第一条-目的)もので、「一般消費者がその購入に際し品質を識別する」(家庭用品品質表示法第二条-定義)ために表示をする責任があるとしている。
このことから、「需要者の見やすい箇所に見やすいように表示する」(繊維製品品質表示規程第三条五項-遵守事項)ということで、別に定められた日本工業規格の取扱い絵表示だけは縫い付ける義務があるが、他の表示は「下げ札」だけでも良いということになっている(東京都発行:『家庭用品品質表示法のしおり』等に明記)。このことから、繊維製品を構成する素材の「組成」表示については、縫い付けラベルに表記されていなかったとしても、販売時の下げ札に表示されていたとすれば、問題はないということになる。

「クリーニング業者は素材がわからなくてもいいのか?」と疑問がわくが、実態は「消費者が購入時に確認するための法律」だからクリーニング業者は関係ないのだ。

大手アパレルメーカーなどが、組成表示を縫い付けラベルに表示しているのは、小売の百貨店などの品質管理との同意によるもので、トラブル品の中には組成表示のないものも目に付く。

●消費者から委託された代行者として
クリーニング業者は、消費者からの委託を受けて繊維製品のクリーニングを行うわけだが、クリーニング業者が、その業務を果たす際、製造者あるいは販売者の品質表示を一応の目安とすることは、社会通念上、当然のことといえる。

仮に、十分な素材知識を持っているクリーニング業者であったとしても、組成表示が示されていない場合、個々の繊維を鑑別することは、作業目的やコスト的に不可能と言っていい。このことから、取扱絵表示の信頼性は絶対的なものでなければ、クリーニング業者の負担するリスクだけが一方的に大きくなる。しかし、取扱絵表示を参照してクリーニングした結果発生したトラブルに対して、品質表示者の多くは、「クリーニング業者のための表示では無い」ことを主張するケースが多い。

知人の弁護士に、確認すると「消費者から委託を受けたクリーニング業者が、既成の技術と一般的な料金設定で作業をする場合、消費者のための品質表示を参照することが、不適当な行為であるとはいえない」ということであった。

●取扱絵表示の根拠となる試験
日本工業規格(JIS)では、JIS L0217 の「3.試験方法」に「表1~4 の記号を表示するときの試験方法は、付表1~4 のとおりとする。」として、品質表示者が取扱絵表示を表示する場合の根拠となるべき試験方法を規定している。

「表4」とはいわゆるドライマークであり、「付表4」はJIS L0860 ドライクリーニング試験法である。このことから、消費者はドライクリーニングできるのかどうかを判断する。

ドライ可とした製品が、ポリ塩化ビニールを一部に使用した製品であった場合、石油系溶剤であったとしても、クリーニングの反復で、可塑剤が溶出することは十分にありえると考えたほうがいい。そこで、表示にドライ可とされていたとき、ドライクリーニングによって、ポリ塩化ビニールの硬化事故が発生した場合、非はどこにあるかと考えると、法規上はクリーニングの責任となってしまう。なぜなら、ドライマークの根拠となるJISL0860 ドライクリーニング試験法とは、主要な生地の100×40 ミリメートルの試験布を使った「染色堅牢度試験法」にすぎないものであり、しかもこれは「しみ抜き、スチームプレスなどを含む広義のドライクリーニングに対する染色堅ろう度の判定には適用しない。」と適用範囲を定めたものなのだ。試験片の染色堅牢度試験だけで、立体製品全体のドライクリーニングの可不可を表示するように規定されているというわけである。

いかにも、現実離れした規格といわざるを得ない。行政に繊維製品の色や形態、風合いやデザインをメンテナンスする業というものは存在しないのである。ただ、クリーニング業法に定める公衆衛生のための業者があるだけである。

ただ、直接消費者と接する百貨店など流通業界側からの品質要求によって、製品としての耐クリーニング性については、社会通念的な品質の在り方が要求され、法規的な空白を埋めてくれているというのが現状だ。

私は、かつて家表法改正に関して岐阜、岡山などのいわゆるアパレル産地で、中小アパレル業者を対象に改正ポイントに関する講習会を実施したことがある。この際、参加者の中に印刷業者がいたことを不思議に思い、参加理由を尋ねたところ、「業者からアイテムと組成表示のデータをもらって、取扱絵表示は印刷業者が資料に従って決めて、ケアラベルを印刷して納品する。だから品質表示の知識が必要なのだ」ということであった。

また最近のことで、絵表示の検討に関するある会合で、表示のための試験法を話題にしたところ、ある経済産業省の担当官が「実際に試験をして表示をつけているアパレル業者などいないんじゃないですか」といった発言をしたと伝え聞いた。

結局、クリーニング業は「生活衛生業者」であって、「繊維やファッション」とは無縁のところに位置づけられている。厚生労働省とは別に経済産業省という繊維産業界の管轄領域と同じ土俵に上がる必要がある。

●ISO との整合化に期待したい・・・
ここで、繊維製品を提供する側に対して民法第415 条「債務不履行責任」や民法第570 条の「瑕疵担保責任」についてまで言及はしない。

現行の表示は、クリーニングに関しては、原則として一切信用できないものであるとすれば、メーカーや流通業界の良識に期待するしかない。

現在、社団法人繊維評価技術協議会では、国際的な規格であるISO3758 とJIS0217 の整合化を目指して検討中にあり、その最終案がまとまった。

この整合化の協議の過程で、最も注目されるのは、「素材、加工等が多様化しており、アパレル業界とクリーニング業界間でトラブルが多く発生している。」という認識があったことである。

本来、ISO のケアラベルの適用範囲には、消費者はもちろんのこととして「professional textile care=クリーニング業者」も対象とするものであると明記してある。旧来のJIS では「この規格は、家庭洗濯などの取り扱いを指示するために、繊維製品に表示するときの表示記号及びその表示方法について規定する」とされており、このことからJIS 表示の「ドライ」は家庭人が「ドライクリーニング」に出せるかどうかの指標としての意味しかないという解釈が一般になされていた。

ISO との整合化を目指した最終案には、1.適用範囲として、「取扱いの範囲は洗濯、漂白、絞り、乾燥、アイロンかけ及び業者によるテキスタイルケアとする。」(直訳的であるが)となっている。

EC(ヨーロッパ共同体)のクリーニング組織として1994 年に創設されたベルギー・ブリュッセルのCINET の正式名称は「インターナショナ
ル・テキスタイルケア・コミッティー」であり、世界のクリーニング業界は、単に「洗うだけ」ではない「繊維製品のケア業」への転換を進めている。日本のクリーニング業界も、クリーニング業からテキスタイルケア業に業態変革すべき時期にさしかかっている。

改正案で注目される要点は以下のとおりだ。

①表示の適用範囲が、家庭洗濯だけでなく「業者によるテキスタイルケア」も含むものとなる。
②表示の根拠となる試験方法が、試験布によるものではなく対象の製品そのものとなる。
③試験機が、実用ドライクリーニング機になる。

ただ、現状の問題として、検査団体で実用ドライクリーニング試験機を所有している機関が1 つしかなく、しかもクリーニング業界で使用されているものとの仕様に大きな差があること、現実に各製品の試験に対応すべき実用機の絶対数が、今後流通するであろう繊維製品に対してほぼ皆無であるということなど・・・、問題は山積している。

「実際に試験して表示なんかしないでしょう。」といった暴言が生まれないようには、どうすべきなのか、アパレルとクリーニング業界全体の課題とすべきだろう。もちろん、国民の豊かな衣生活に貢献するために。

組成表示の無いケアラベル

東京都発行『家庭用品品質表示法のしおり』より部分

JIS 規定の洗濯堅牢度試験用試験機