エコロジー素材ヘンプは大麻草の茎の繊維
夏物衣料にエコロジー素材として人気のあるヘンプという繊維があります。繊維製品の品質表示では「指定外繊維(ヘンプ)」と表示されています。
実は、このヘンプとは、麻薬物質として知られるマリファナやハシシュの原料となる大麻草の茎からとれる繊維なのです。マリファナとなるとちょっと穏やかではありません。犯罪のイメージですが、マリファナなどの原料となるのは、葉や花の部分であって、ヘンプの素材となる茎部分には麻薬物質はほとんど含まれていません。また、繊維用の大麻草品種では、葉部分にもマリファナ物質はほとんど含まれていないということなので、ヘンプで煙草を作って吸ってもマリファナ効果はないということになります。
大麻の群生 厚生労働省発行『大麻・けしの見分け方』より
大麻草は、養分の少ない土壌であっても成長が早く良く育ち、化学肥料を使用する必要もないということで、環境負荷が低い植物です。このことから、レーヨンやテンセルの原料となる森林資源や、ポリエステルやアクリルの原料である石油資源に代わる環境にやさしい繊維として注目されています。
大麻は日本では伝統的な繊維素材として、下駄の緒や蚊帳、漁網などにも使われてきました。昔の日本語で麻といえばヘンプのことであり、魔を払う神聖な繊維として幣(ぬさ:神主が振る棒状の先に付けられたもの)の素材であったり、古代史上は、縄文式土器の縄に使われたものも、大麻草の繊維であったと言われます。 このように、日本人の暮らしに深くかかわっていた大麻ですが、マリファナの原料となることから規制が厳しくなり山野で見ることはなくなりました。現在は中国やフランスなどで栽培される大麻がヘンプの原料として夏物ジャケットなどのファッション衣料に使われています。 繊維素材としては、家庭用品品質表示法で「麻」と表示される亜麻(リネン)と苧麻(ちょま、ラミー)に比較して硬く、野性的なイメージがあります。
綿・ヘンプ混ジャケット(無印良品)
●衣料用素材として「麻」と表示されない麻
ヘンプは、産業用繊維としては麻の一種でありながら衣料用としては「指定外繊維」と表示されますが、このほかに沖縄の芭蕉布やマニラ麻の原料であるイトバショウの繊維、コーヒー豆の袋として親しまれている黄麻(ジュート)、ロープの原料として知られ、リュウゼツランの一種から作られるサイザル麻なども、麻と呼ばれますが衣料用としては「麻」と表示されないものが多くあります。共通しているのは、靱皮繊維(じんぴせんい)と言われる植物繊維のことです。