英国王室御用達JEEVES-1

2008年7月3日ロンドンに英国王室(Prince of Wales)御用達として知られるクリーニング企業ジーヴス(JEEVES)の工場と店舗を訪問しました。

同社は1969年の創業で、1998年以降英国最大のクリーニング企業であるジョンソン・サービス・グループ(JSG)のデヴィジョンとなっています。JSGは、ドライクリーニング、ユニフォームレンタルなどの事業を擁する年間800億円の売上を誇る英国最大手のクリーニング総合企業であり、中核となっているのは、ジョンソンクリーナーズ(年間売上約200億円)で、イギリスの全クリーニング需要の約20%を寡占しています。

日本と異なり、ヨーロッパにおけるクリーニング需要層は、一般大衆では無く、比較的富裕な資産家や高所得者層であり、ジョンソンクリーナーズも、単に「洗う」という仕事から、より付加価値の高い「テキスタイルケア」を志向しながら事業を展開しています。今回の訪英にあたっては、当初2002年に取材したジョンソンクリーナーズのその後を見たいということと、年々多様化の進むアパレル製品に対しての対応についてという趣旨でした。この旨をジョンソンクリーナーズのポール・オーグル氏に打診したところ、「そういうことならジーヴスを視察した方が良いでしょう」との回答があり、ジーヴスの管理責任者レイ・ランバート氏を紹介いただきました。

ジーヴスの管理責任者レイ・ランバート氏

 ジーヴスは、チャールス皇太子など英国王室や世界レベルの富豪のオートクチュールから高級ブランド既成服などを、高いポリシーを持って最高レベルのサービスの提供を目指しているクリーニング企業で、“ジーヴス”そのものが、有名ファッションブランド以上のセレブブランドとなっているという印象がありました。 事業形態は集中工場方式で、ロンドン市内に9営業店舗と6台のバンによる外交営業で展開しています。また、ジーヴスのブランドを海外にも展開するためにジーヴス・インターナショナル社が設立されており、ニューヨーク、イスタンブール、ジャカルタ、香港にもフランチャイズが存在しています。いずれも、ごく限られた富裕層御用達のビジネス展開と見られます。

2007年版のアニュアルレポートによると、ジョンソンクリーナーズのデヴィジョンでは、消費減少、環境投資、設備経費の負担もあってここ数年数%程度の売上減を続けており、17店舗の整理と4店舗の新規出店など整理統合を行うなどの対応を行っています。しかし、ランバート氏によるとジーヴスのデヴィジョンは、この4年間では、毎年10~12%の成長を続けているとのことです。

■需要の掘り起こしに新しいイメージ戦略

ジーヴスでは、オートクチュール、高級ブランドに対するテキスタイルケアサービスの需要は、まだ開発の余地があると考えており、従来の9店舗に関しても、新しいイメージ・コンセプトの導入を進めています。 ヴィジュアル・イメージとして、打ち出しているのは、従来のロゴやマークの他に、“透明人間”というキャラクターです。 従来のセレブ層の御用達という在り方から、需要層のすそ野を拡大するという店舗イメージの転換に取り組んだ最初の店が、メイフェアの店です。

新しいイメージに改装したメイフェア店

 メイフェア店は、19世紀以来ファッションストリートとしても名高いボンドストリートに近く、日本大使館にも近いところにあります。ジーヴスの店はすべてロンドンの一等地といわれる地域にあるのです。 この店のウィンドウには、大きなスクリーンにドレスをまとった“透明人間”のイメージ飾られ印象的です。

新しいジーヴスのイメージキャラクター

  “透明人間”の説明が小さな文字で印刷されています。競馬観戦をしている女性の“透明人間”には「ドレスby “ベン・デ・リシ”、帽子by“コンゾ・ジェンクス”、双眼鏡by “ライカ”、シミby “シャトー・シュバル・ブラン・CRU”、手仕上げby “ジーヴス”」と書かれています。ベン・デ・リシはイギリスの有名デザイナー、ライカは光学機器のトップブランド、すなわち、この“透明人間”が身にまとっているドレスも帽子も双眼鏡もすべてトップブランドのもので、そのドレスにヴィンテージワインであるシャトー・シュバルのシミが付いていた。そしてこのドレスをクリーニングして手仕上げたのはそれらのトップブランドにふさわしいジーヴスであるということになります。 メイフェアの店は、本店にあたるベルグラビア店以外のほとんどの店舗と同規模で、機械設備は無く、受け渡しだけが行われています。店内はシンプルで、カウンターとドレスの掛けられたトルソー、革張りのソファーがあるだけで、預かり品や仕上がり品は、バックヤードである広いストックルームに保管されています。

 このお店の売り上げ規模は、年間8,000万円程度で、家賃コストが最も大きく月額100万円程度の負担となっています。

■年間売上約2億円の営業店ベルグラビア

 

 ジーヴス発祥の地でもあり、社名にもあるベルグラビアの店は、ジーンズでの入店お断りという有名百貨店“ハロッズ”の近くにあります。  外観を見る限り、とてもクリーニング店というイメージではありません。白い壁面に大きなウィンドウ、高級感のあるドレスが展示されているのが街路からは目立ちます。  ジーヴスの創業地は、車道を隔てた向かい側のビルにありました。そしてその前には、1970年のタイムカプセルを内蔵した二人の買い物をする貴婦人の銅像が建っています。この銅像は、ジーヴスがロンドン市に寄贈したもので、この地区のランドマークになっています。そして、この貴婦人の像がジーヴスのマークとして使用されているというわけです。

 

 ベルグラビア店の向かい側の創業地前に立つ銅像。ロンドン市の財産でもある銅像はジーヴスのシンボル

  販売品のようにも見えるワイシャツだけを店頭展示

  ベルグラビア店の顧客は、創業以来の固定顧客が多く、そのほとんどは昔からの資産家、大企業経営者などであり、バックヤードのドレス置き場では、ベルサーチのオーダー品で某国の王女のものも置いてありました。ベルグラビア店の年間売り上げは約2億円ということです。受付における検品は十分に行われており、また集中工場の管理も水準も極めて高い、それでも特殊加工品や顧客の誤解などからトラブルは発生するようです。トラブル発生に際しては、ただちに弁償するというのが基本で、ジーヴズ全体で年間約600万円の弁償金を支払っているといいます(総売上の0.7%)。

料金表を見る限りでは、背広上下約6,300円(1英国ポンド=215円換算)と驚くほどの料金ではありませんが、fromとあり、これが最低価格となり、素材やシミの有無などによって料金が加算されていくようになっています。ちなみに小さなシミのあるもので20%アップ、大きなものは50%アップとなります。また、オートクチュール製品は、製品価格の10%程度がクリーニング料金となります。(つづく)