JTCI設立の背景

この原稿は、2009年IDC国際クリーニング会議北京大会において、本協会代表理事である住連木政司が講演した“How to Respond to Worldwide Recession ― Dry-cleaning business revolution in the 21st century”の原文を収録したものです。

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中国商業連合会染洗専業委員会英国テキスタイルケア協会米国ナショナルクロズライン新聞社

1970年代以降、日本では高度な経済成長を背景に、ファッション衣料の素材やデザインが極端に多様化し、世界的な高級ブランドも多量に消費されるように なりました。今日では、日本は世界有数の高級ブランド消費国であるといえます。 これらの新しい加工や複雑な素材の急激な変化に対し、私は日本のドライクリーナー有志とともに、繊維製品の消費性能と耐クリーニング性についての研修組織 を設立し、アパレル産業界や消費者団体からも高い評価を得るようになりました。 クリーニング産業界におけるそれ以前の主な研修項目は、洗浄理論や販売促進、生産性向上のための理論でした。しかし、私たちの産業が、繊維の特性や染色、 加工などについて学ぶ必要が高くなったのには、時代の変化という重要な問題があります。 ドライクリーニング業の誕生には、フランスのテーラーであるジョリー・ベランがランプのオイルをテーブルクロスにこぼしたという伝説があります。この伝説 で重要なポイントは、親水性の天然繊維であるリネンについていた汚れが、製品の変形のリスクなく除去されたということです。つまりドライクリーニングは、 ほぼ同時期に始まったファッションの大衆化に向けて誕生したものであると言えるのです。 繊維製品とドライクリーニングの歴史を振り返ると、ドライクリーニング以前にすでに産業革命ははじまっており、それは、繊維産業の多大な発展に貢献しまし た。そして20世紀はファッションの世紀といわれるように、大量のファッション衣料が生産され、ドライクリーニング産業の貢献によって、それまで貴族社会 のものであったファッション衣料を、洗うことによって繰り返し着用可能なものとし、大衆化されていったといえます。

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しかし、ここで重要なことは、1970年代以前の衣料素材は、親水性の天然素材だけであったということです。親水性の素材は、原則として、ドライクリーニ ングによって形状や染色の影響を受けることはありません。このことから、ドライクリーナーは、生産性と合理化によって利益を得ることができました。
しかし、1960年代にポリエステルをはじめとする化学繊維が、本格的に量産されるようになり、1970年代以降繊維素材として大きなシェアを占めるようになりました。

1969年アメリカのドライクリーニング産業界においては、「暴風警報」が発せら れたことを記憶しておられる方もおられると思います。この警告は、ポリエステル繊維などのイージーケアの素材の普及と、ドライクリーニングすべき製品が家 庭で洗濯できる中性洗剤の普及を背景としたものでした。警告の通り、衣類のカジュアル化と家庭洗濯の技術革新、そして追い打ちをかける世界的な経済不況に よって、1990年代以降、世界のドライクリーニング産業は衰退の傾向となり今日に至っています。

また一方で、1990年代以降にはポリウレタン樹脂などの化学樹脂を使用した各種の加工やストレッチ素材、顔料による染色のような加工などが開発されるよ うになりました。これらの新しい衣料素材は、ドライクリーニングによるトラブルを引き起こし、消費者不信を招いています。そして、この「難洗衣料」のほと んどは、ドライクリーニングによって影響を受ける親油性の素材であることを記憶しておいてください。200年近いドライクリーニング産業の歴史の中で、こ のような「難洗衣料」が出現したのはわずか30年程度の歴史しかないのです。これらに対応することなく、21世紀のドライクリーニング産業の繁栄はあり得 ません。

『繊研』新聞2006年11月7日号

このような状況の変化に対して、一部の繊維製品を研究し、単なる洗浄ではなくテキスタイルケアを目指す業者は、個々の製品に対して特殊な処理方法を試して います。 しかし、このような高度な技術を駆使するためには、高額な料金を顧客に要求せねばなりません。従来のジャケットのドライクリーニング料金と同じにしていて は、工場原価が過大になりすぎます。そしてまた、この作業は従来のような、汚れたものを清潔にする「ドライクリーニング」という単純なサービス製品ではあ りません。 このことは、世界のクリーニング産業界を悩ませています。 この記事は、昨年10月1日の英国の業界紙『ランドリー&クリーニング・トゥデイ』の1面トップ記事です。「『ドライクリーニング』とは消費期限切れの死 語ではないのか?」そして「あなたがたは『テキスタイルケアスペシャリスト』ではないのか?」書かれています。この記事は、まさに現在のクリーニング産業 の混迷を指摘しています。

では私たちは、クリーニング業からテキスタイルケア業へと転換しなければならないのでしょうか?答えはノーです。 最近のアパレル産業界ではH&M、ユニクロ、フォーエバー21  などファストファッション と呼ばれる低価格商品のマーケットが拡大しています。クリーニング業をそのまま「プロフェッショナル・テキスタイルケア」業として、高料金を志向すること は不可能と言っていいでしょう。もし、クリーニング産業全体が高料金を志向すれば、消費者の一部の期待感から遊離していくことになります。 ここに、従来のクリーニング産業とは分離して、世界においてプロフェッショナル・テキスタイルケア産業を新たに創造して、大衆にその存在を知らせる必要が あります。

分離することによって、従来のマスプロダクトのクリーニングは、プレス無し、包装無しの徹底した低料金を追求することも可能です。それは、ファストファッ ションに対して、ファストクリーニングと呼ばれることになるでしょう。ただし、難洗衣料を選別する知識が必要になります。免責同意書に顧客のサインをも らって、低料金を提供するという契約が必要になるからです。このことによって、迷うことなく大衆化を推進できます。

プロフェッショナル・テキスタイルケア産業を創業するためには、繊維や染色、デザインに関する知識が必要になります。そして、顧客にアドバイスしたり、相 談に乗ったりしながら私たちの高度な技術を理解してもらわなければなりません。そしてそれが、リーズナブル・プライスであると証明しなければなりません。 そうしなければ、今後増大する難洗衣料に対応できず、顧客からの信用を失うことになるからです。 工場原価が増大し、顧客の信用を失えば、クリーニング産業は崩壊します。 ドライクリーニング産業は21世紀のエコロジー文化のためにも、発展しなければなりません。私は、今後日本において、Professional Textile Care産業の法制化を推進したいと考えています。これは、私の人生のミッションであると考えています。いつか、日本モデルとして、皆さんにご紹介できる ことができる日が来ることを希望しています。