第3回シンポジウム・デザイン文化をサポートするテキスタイルケア

JUNKO KOSHINOブティックでは、同社でも初めて、店内商品を移動して限定60人の参加によって営業店舗内で開催しました。同会場の受講者を取り囲む形でコシノ・ジュンコ氏の作品でもあるファッション商品が展示される形となり、壇上には和装の技術で開発された金箔のドレスが展示されるという従来の講演会とは異なる現代ファッションの現場を意識させる会場構成となりました。

世界的デザイナー コシノ・ジュンコ氏による基調講演『ファッションの力』

基調講演は、世界的なファッションデザイナーとして知られるコシノ・ジュンコ氏によって『ファッションの力-ファッションで世界を照らし切り開く-』と題して行われました。これは、従来の日常着やビジネスウェアを想定したクリーニング業の在り方に対し、1980年代以降急激に発展しているファッション文化に『テキスタイルケア(繊維製品のケア)』という新しいビジネスモデルを求めようという同協会が、コシノ・ジュンコ氏に趣旨を理解いただき実現したものです。

コシノ・ジュンコ氏

 同氏は、ファッションはセンス-感性の産物であり、そのセンスには4つの意味がある。「優れた感性」「実体験」「知識」「状況判断」という要素により、これらの総合されたセンスによってファッションは生み出されていると語りました。状況と体験のために常に新しいものに取り組み、羽田空港第2ターミナルで開催した「前代未聞の空港でのファッションショー」の挑戦などのエピソードを、壁面に大きく映し出された映像などによって紹介しました。また、テキスタイルケアの在り方についても、洗濯機の中に入れてモミ回すといったものではなく、たとえば人体にドレスをかけたままミスト-霧で洗うといった新しい挑戦はできないものでしょうかと、ケア産業のイノベーションへの期待も提言しました。

最後に、同氏が日頃から心がけていることとして、「か・き・く・け・こ」というキーワードを紹介。「か:感謝すること」「き:希望を持つこと」「く:くよくよしないこと」「け:健康管理はしっかりと」「こ:行動を起こすこと」と熱く語りかけました。

繊維製品の品質維持・復元技法に係る取扱い-グレーゾーン解消制度の主旨と経過

一般社団法人 日本テキスタイルケア協会(住連木政司代表理事)では、衛生処理として汚れを落とすことを目的とするクリーニング業の在り方について、高度な装飾性をもつ現代のファッションデザインの維持にそぐわない部分があるとして、クリーニング業の営業を規制しているクリーニング業法(昭和25年施行)に明文化されていない「①衣類整形仕上げサービス、②衣服染色サービス」について、クリーニング業法の規制対象外であることを明確にするため、2015年7月に政府に対して照会を行いました。

これは、産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」によるもので、本来消費者が正当に受けるべき技術サービスである「①衣類整形仕上げサービス、②衣服染色サービス」が、クリーニング業と混同されてしまわないようにすることを明確にしようというものでした。

この照会に対し、繊維製品に関する所管である経済産業省とクリーニング業を所管(衛生行政)する厚生労働省との折衝によって、当協会が行った主張は全面的に認められ、2015年9月14日、経済産業省の公表として国民に周知されることになりました。

一般のクリーニング業では、洗濯工程上の脱水などによって発生したしわを伸ばすプレスが行われていますが、注文紳士服業者では、顧客の着用によって変形した形態を復元するサービスを行っており、この目的は整形にあるということから、クリーニングでのプレス作業とは異質なものであるということです。また、衣類の着用による汗や紫外線による退色、薬品類による脱色による色彩の変化を復元するサービスは、汚れを落とし衛生的措置を目的とする洗濯業とは明らかに目的も作業内容も異なるため、クリーニング業には当たらないということになります。

またこの他、衣類を固定して部分的に噴射とバキュームを同時に行いながら汚染除去を行う装置(商品名:ハイブリッドクリーナー)は、業務用洗濯機に該当するかという照会に関しては、汚れを除去し脱水する機能を有するということから、厚生労働省によってクリーニング業法による業務用の洗濯装置に該当すると認められました。このことによって、新しいクリーニング業のビジネスモデルの可能性が開けたといえるでしょう。

「繊維製品の品質維持・復元技法に係る取扱いが明確になりました」と題された経済産業省公表 2015年9月14日

クリーニング事業者からは、家庭洗濯のイノベーションや家庭で洗える衣類の開発など、急速な点数減が継続していく将来に向けて、プロの技術による高付加価値なサービスの提供を開発することが緊急の課題であるといえます。

注文紳士服業者のメンテナンス技術やきものお手入れ業者の色掛けなどのメンテナンス技術を、クリーニング業法に示された衛生のための洗濯という家事代行業としてのクリーニングとは区別したサービスとして、独立したメニューに加え、時代に対応した新しい事業開拓に取り組むための第一歩として、今回のグレーゾーン解消制度の適応が行われたものであるといえます。

(住連木政司)

プロフェッショナル・テキスタイルケアへのビジネスモデル構築の挑戦-パネルディスカッション

 今回のシンポジウムでは、「プロフェッショナル・テキスタイルケアへのビジネスモデル構築の挑戦」と題するパネルディスカッションにも大きな注目が集まった。

 長年にわたる需要減に歯止めがかからないことから業界には大きな閉塞感が漂っているが、「クリーニング」の看板一つで多岐にわたるサービスを展開していくには無理がある…と指摘する声もあります。そこで、「テキスタイルケア業」の確立が期待されているのですが、テキスタイルケア業とはどのようなものなのか、立場の異なる4者の協会会員によって、それぞれが考える今後の方向性を探りました。

 司会:毛利春雄氏(株式会社オフィス毛利)

1960年代の生産性を追求したクリーニング産業成長期から今日に至るまでクリーニング事業開発のトップコンサルタントとして活動。

 このパネルディスカッションでは、住連木さんが考えたテキスタイルケアの概念について皆様がどのように考えているのか聞きたいと思います。私自身はテキスタイルケアを初めて聞いた時、「ケア」って何だろうか?と考えましたが、ホテルにあるブラシを思い出しました。ホテルには洋服ブラシが必ず備え付けてありますが、人々はそのブラシの使い方について、教わったことがありません。衣服を長く守らせる方法の一つに、ブラシがあるわけです。同様にハンガーのかけ方についてもよく知られていません。服を吊るすとき、その服にぴったりのものを選ぶ必要がありますが、ビスポークでは10着の服があると10本それぞれのハンガーがあります。これらが本物のケアだと考えましたが、私たちがやっているクリーニングについて、どれだけケアのことについて考えているのかを考える必要があります。

 そして、衣服に対してマスで扱うのではなく一点ずつ個別にどのように扱うかですね。私は傘を持つのが嫌いな方で、肩が縮んだりします。これを直してくれるクリーニング店が少ないです。このように、一点それぞれに向き合いケアを考えていきながら、クリーニング業にも向き合っていく。これが大切だと思います。

 テキスタイルケアとは、初めての業態ですが、いま日本では、ドライクリーニングの言葉でワイシャツを洗うこともスーツを洗うことも一緒に捉えられてしまっている。本当はランドリーと分けられて考えられるべきなのです。それでは、パネラーそれぞれが考えている、テキスタイルケアについて披露してもらいます。

パネラー:関誠氏(ゼンドラ株式会社)

  業界マスコミの立場から、1975年にいち早く当時のクリーニング産業の業態が将来のファッション文化に対応できないことを指摘した濤川進氏のFQM理論を推進。

 私の方からは、FQMについて。クリーニングにおける新しい職業論についてお話をさせていただきます。FQMとは昭和50年、濤川進さんが考えたクリーニング理論で、当時は色々な人がこのFQM理論を勉強したものです。これと同時期に、アメリカのクリーニング業における暴風警報「ストームワーニング」が昭和47年に発表され、これも日本では議論になりましたが、誰がこれを持ってきたのか?というと、東京ホールセールの社長で、当時日本クリーニング生産性協議会の理事長を務めた国友正さんでありまして、この濤川さんと国友さんの二人だけが、このままでは日本のクリーニング業はダメになると予言したのです。濤川さんは、クリーニングは必然性の高い商品であり、衣服は必ず洗わなければならないもの。だからこそ経済成長とは無縁だと唱え、必需品産業と同じように「より安価」である価値基準を消費者に植え付けてしまったことが致命的だと語りました。

  そしてクリーニング業はこれまで職業変化が起きずに来てしまったと指摘。クリーニング業を進化していない公衆浴場に例え、お風呂屋でもサウナや健康温浴などレジャー産業化しているが、クリーニング業は?と問いかけました。そしてクリーニング業のこれからを、文化的目線で考えていく必要があると述べ、自転車と自動車を比較した場合、自動車の方に優位性があると思うのは経済の価値観であって、健康やエコロジーという文化の目線で見ると自転車の方が優位に見えたりするもの。これからはそんな時代になっていくと言うのです。そして企業としてどうあるべきかよりも、職業としてどう考えていくべきかを大きく説きました。

 クリーニング業の職業的あるべき要素は、汚れとは過去のものであり、汚れがついたからクリーニングするという次元でなく、量的拡大は望めないクリーニング業であるからこそ過去の汚れに固
執していると、売り上げは落ちていく。だからこそ、「いま汚れていない明日の汚れを洗いましょう!」という話になったのです。

 そして、理美容や化粧品・増毛業界と同様に美的追求産業の一端を担う産業になってもおかしくない!と語り、業態としては三つに区分。「洗浄」「修理」「保全」で考えていくべきと一つの方向性を示しました。

  人間の洗浄はお風呂屋さんであり、人間の修理はお医者さんや診療所。人間の保全とは病気にならないことで、病院や人間ドッグ・スポーツジムがあります。明日の汚れを洗えますか?の答えはまさに保全業化であり、「病気にならない工夫=汚さない工夫の提供」。医者は病気にならない指導をしてお金を稼いでいますが、クリーニング業にも汚れない工夫の提供をしながらお金儲けできる産業にしなさい!と言ったのです。衣類の洗浄はクリーニング業があり、修理業はようやく始まりました。当時はありませんでした。ただし衣類を保全する「汚さない・壊さない」ための業種業態はありません。この部分をテキスタイルケアで作っていかなければと感じております。

パネラー:沼崎周平(株式会社ユーゴー) 

 クリーニング産業の衰退期に事業を引き継ぎながら多様なビジネスモデルを展開して飛躍的に事業規模を拡大することに成功。

 10年前から新卒採用していますが、クリーニング業のイメージが原因で採用には苦労しております。説明会を行うのにも莫大な費用をかけていますが、去年の実績で内々定18名中、内定承諾して入社したのが3名。83%が内定辞退。本人は入社希望しても、地元の地銀と両方の内定があると親は間違いなく銀行を薦めます。

クリーニング業は昭和50年から平成にかけて儲かってきましたが、クリーニングの品質を消費者に啓蒙するのではなく、いかに早く安く提供できるかの競争でしたし、私もその張本人でした。価格ありきで、ファッションの楽しみや良い服を長く着る文化を育てなかた。だから需要も減少し人材も来ないのが我々の業界の現状です。

 ですが今は、テキスタイルケア業が救世主だと思っています。とにかくネーミングが格好良い。アパレルの匂いがプンプンする。洗濯という家庭的なイメージがなく、ネーミングから専門的な雰囲気が伝わってきます。人を育てながら事業成長させようと考えていますが、クリーニング業とテキスタイルケア業で人材の確保ができるスタート地点だと考えています。

また、洗濯の選択を提供できるように、テキスタイルケア業をブランドのトップに掲げています。まだテキスタイルケア業はOPENしておりませんが、クリーニング専科100店舗に対し、MIXMAXが10店舗、そしてテキスタイルケアの店舗が1店舗の割合になると考えており、ターゲットはラグジュアリーファッションや洋服を長く着たい人のためのブランド。ライフスタイルの中にクリーニングを取り入れてもらうために、あえて既存ブランドの頂点に据えて、宣伝告知することによって下位ブランドの価値向上につなげていく考えです。

 テキスタイルケアショップとしては、下位ブランドを利用する消費者にフルオーダーするシャツを販売する構想で、既存店で実験を行いまして三百数十枚を販売しましたが、将来的にはテキスタイルケアショップで消費者に提供したい。トップブランドとしてフルオーダーのシャツやスーツを百貨店価格の6~7掛けで販売したいと考えています。

そしてユーゴーでは、利益を上げているクリーニング業を川下に見立てて、そこから川上に上っていこうと思ったのです。

 靴を洗うとかリペアするとかは横展開。横ではなく業態を縦に伸ばしていく考え方で、おさがりコーナーを今月OPENしました。クリーニング専科の店内でおさがりを預かり、そのおさがりを連鎖させる。そのおさがりは川上にある古着につながり、古着は横のリフォーム・リペアにつながります。そして、これらを買う・作るという展開にまで持って行こうと考えています。

クリーニングが商売の源で、利益を追うのはクリーニング。他のビジネスはより地域性を明確化したもので、地方にもアパレルの学校がありますが、衣服にまつわる生産や販売などのサービスのご当地展開を考えています。

都内で仕事したいが、子育てや親の介護などの事情で地方に戻ってくる人々を採用し貢献したい。だからこそ、ご当地グルメ・ご当地焼き物と同じように、この地域にしかない洋服が売っていても良い!という考えです。

それで収益を上げるというより、最終的にはこれらがクリーニングに出れば良いと思うのです。粗利はほんの少しで良い。デザインしたい人、古着をやりたい人などなど。古着の担当者は、毎月アメリカに古着を買い付けに行こう!などと社員と議論しています。

 クリーニングという本業でしっかりと収益を確保すれば、デザインとかファッションで働きたい!という人々を雇用できたりする。テキスタイルケアの確立で新しい文化を創っていく。いま開始しても20~40年後にはあって当たり前の業種業態にしていきたいと考えています。

 

パネラー:坂田知裕(株式会社トゥトゥモロウ)

  ITを活用しながら独自に開発した事業形態でファッションメンテナンスサービスを展開し、ファッション産業との事業コラボに取り組んでいる。

  いまから23年前に宅配クリーニングを始めたところから業界に入り、いまは店舗を運営しながらサービスを作っています。会社はファッションメンテナンスとITを軸に考え、お客様にわかりやすいサービスの提供を行なっています。

 クリーニング業に入った頃から、クリーニングの延長線上にファッションメンテナンス業があり、価値観の多様化から物やアイテムに対してこだわる人が増えてきて、ただ洗うだけでは価値提供できないと感じておりました。このテキスタイルケアが会社のコアであると考えています。このコアな部分から、デリバリーやネットサービスに分かれ、ランドレスであったりするのです。

 さて、本題のテキスタイルケアを始めたのが、ランドレスクリーニングラボです。海外の洗剤商品ですが、この洗剤を使ったクリーニングの提供を行っていくことでテキスタイルケアの実践を始めました。メンテナンスのプロがこの洗剤を使ってクリーニングし、4種類の中からお客様に選んでもらった香り付けをしてお返ししています。自宅で洗えない物をプロが一点一点洗うサービス。その一点一点にはカルテを付け、どういった洗剤を使って、コンディションがどんな状態だったのかを記録。採寸をしながら、技術者・施術者がコメントを書いてお返ししています。

 実際の洗浄のマシンはハイブリッドマシンをあえてラッピングし、一点ずつのオーダークリーニングしており、水洗いです。このように一点一点の作業する流れは最初から組み込んでいたわけではありませんが、結果的にこれが私のテキスタイルケアという形になりました。こうした一点一点のオーダークリーニングを行ってみて、評価していただけるお客様が確実に居ると実感しています。

DIESELさんの秋冬のノベルティーとして、ショップ各店舗でランドレスクリーニングが一点無料になるチケットを配布し、TATRASさんでダウンを購入された方にキットを配布し、クリーニングを募ったりしています。TATRASさんでは900セット納め、回収が412枚。約40%の戻りで、アパレルメーカー側もノベルティーとしては実績があったとの評価。一点あたり4200円を請求させていただき、仕事しました。

 また、デイリークリーナーズというアパレルブランドが立ち上がりましたが、ここのブランドのコンセプトは良い物を長く使うこと。その一つとしてクリーニングを最初からラインナップに入れており、私たちがテキスタイルケアとしてお手伝いしております。

これまでは事例の話でしたが、ここからは私が考えるテキスタイルケアサービスですが、それは1アイテム・1メンテナンスというスタイルで、一点一点と向き合うサービスが基本です。料理人は素材を見て料理を決めるように、クリーニングも同様に一点ごとのカルテがあり、しっかりとヒアリングできるカウンターがあり、カウンセリングを行ないます。

 基本は回さないで丸洗いしないこと。ハイブリッドシステムでは皮革アイテムも洗浄可能なのである程度の商品まで対応でき、ダブルアンダーバーも含めたウォーターケアも実現できます。

 現在そのような実践店舗は無くイメージですが、カウンセリングのテーブルが一つあり、座って話し合いができる。洗浄マシンが一つあり、ボックスの乾燥機。プレス機やしみ抜き台があり、小さいユニットショップの感じですが15坪くらい。オープンキッチン的なイメージで、ビジネスとしては2人・10時間稼働・時間あたり5点・単価1500円・日販8万円です。これを基本に外注はゼロでワイシャツは出ないと考え、メニューに入れるならあえて高くして出なくても良いスタイル。自社の工場がセントラルキッチン的なイメージで、これが実現すると暑くない工場にもなって、従業員の定着率の改善につながると考えています。このようにテキスタイルケアを自社で考え、立ち上げ、世界観やブランドを確立すれば、今の時代はWEBで展開できるのもメリットです。

最後にまとめですが、総需要が減少している中で、こういった形で新しいマーケットを創るのは楽しいのでは?と感じております。