シミのように見える濡れ効果

白と紺の格子縞に紺のリボンが付いた生地があります。濃紺のリボンに石油系溶剤を垂らすと、溶剤がさっと浸透して、生地にリボンの紺色がシミ出したように見えます。同じようにリボンに水を垂らすと、これも紺色に生地が染まったようになります。

 しかしこの生地を、数時間放置しておくと紺色に染まったように見えた生地は元の白と紺色の格子縞に戻ります。

これが、濡れ効果です。生地を構成する繊維は、水や油に濡れることによって、繊維どうしが密着すると同時に表面の凹凸が水や油に覆われて透明感が増します。このことによって、光の乱反射が失われ、濃色化するということになります。この現象を濡れ効果といいます。リボンから色が出たわけではありません。

 ●繊維製品の汚れは油性物質で接着されているから、ドライクリーニングすると全体に白っぽくなる

水や石油系溶剤であれば、数時間で揮発してしまいますから、この変色が濡れ効果よるものであったということが分かります。しかし、これが揮発性の悪い油剤であった場合は、見掛け上の変色が持続することになります。

クリーニングに出されるほとんどの繊維製品は、外出着であって、その汚れ成分には大気中に含まれている油煙が吸着されています。また、この油煙が接着効果を発揮することによって、不溶性の汚れが吸着されることになります。

 生地表面の汚れ付着状態のモデル図

  大気中の油煙の原因は、自動車などの排気、工場排煙、厨房排気などが考えられます。このような、油性のバインダー(接着効果物質)を溶剤で溶解することによって汚れを除去するのが、ドライクリーニングの効果であると言えるでしょう。

しかし、繊維が油膜によって覆われると濡れ効果が発現するということになりますから、汚れた繊維製品の多くは濃色化しており、ドライクリーニングによって白っぽい本来の状態に戻るということが言えます。

先ほどの生地に、透明なサラダオイルを付けて、顕微鏡で観察すると、濃紺のボーダーの上を横切って格子縞を構成している部分が、半透明になることでその下にある濃紺の糸が透けて見えます。また、濃紺の部分の表面にある白いヨコ糸は、繊維が少ないためにほぼ透明になり、濃紺に染まっているように見えます。

 左が乾燥状態、右がサラダオイルに濡れた状態

左の濃紺のボーダーにある白いヨコ糸が、右ではオイルによる濡れ効果で透明になり濃紺に見える